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ウォーター&ブレス〜音楽家のための呼吸法〜

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身体を自由に操作するための「ウォーター・トレーニン
グ」と、その自由になった身体で体幹内部を開発する呼
吸法「ブレス・トレーニング」。初心者から上級者まで
取り組みやすく、続けやすいシンプルな体系として整理
しました。


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著:黒坂洋介
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【インデクス】
ウォーター&ブレス誕生まで
ウォーター&ブレスの特徴
ウォーター&ブレスの内容
メルトバウ
チャイルドタイム
フィッシュスイム
SOシフト
ウォーターバッグ
ボトミング
ニーノ
チョーク度
ジェリーフィッシュ・フロート
ウォーター&ブレス復習
トレーニング・テープの使い方


2005.7.21
ウォーター&ブレス 〜音楽家のための呼吸法〜
第一回 ウォーター&ブレス誕生まで

<1999年〜2002年の意見交換>
1999年11月、メルマガ形式で「管楽器演奏の呼吸に関す
る考察」という論文を発表してから、多くの音楽家と意
見交換させていただく機会に恵まれました。

これらのやりとりは、2002年春に整理・編集し、以下四
つの論文集としてまとめました。

第一集 <まま呼息の発見>
 管楽器演奏の呼吸に関する考察

第二集 <インナー・ウォームアップの方法>
 ある呼吸法の提案(楽呼吸法 らく・こきゅうほう)

第三集 <丹田論争>
 呼吸法に関する意見交換

第四集 <深いリラクセーションのために>
 波呼吸法(なみ・こきゅうほう)


<神武会の発足>
この意見交換を通じて、呼吸法をもっと深く学びたい、
実際にトレーニングしてみたいという声を頂戴するよう
になりました。

そこで2002年9月から、有志を募って私的な勉強会をスタ
ートさせました。会場は東京世田谷にある元剣道場の神
武館。この道場名にちなんで勉強会を「神武会(じんむ
かい)」と名付けました。

これまで社会人あるいは学生ビッグバンドの管楽器奏者
を中心に多くの人が参加。ドラム、ベース、ジャズピア
ノ、クラシックピアノ、フレンチホルン、ボーカル、指
揮者など、プロ・アマを問わず、さまざまな音楽家と一
緒に勉強させていただいています。


<3年間の成果>
神武会も、この夏で丸3年を経たことになります。当初は
月1回の会合でした。2004年からは月2回ペースで開
催。その間、いろんなトレーニング法や学習法を試して
みて、ノウハウを蓄積してきました。

このたび、それらの成果を整理して発表することにしま
した。こうしてまとめたのが、今回ご紹介する「ウォー
ター&ブレス」です。


<ウォーター&ブレスの特徴>
呼吸法については、多くの理論家、実践家が異なる説を
唱えておられるため、初学者は混乱しがちです。

そこでウォーター&ブレスにおいては、学習者が「理論」
「実践」の両面から、トレーニングの全体像を明解に理
解できるよう心がけました。また「いかに継続できるか」
という点について、いろんなくふうを盛り込みました。

ウォーター&ブレスの特徴をあげれば、

●目的や方法が明解である
●きちんと教われば一日で手順をマスターできる
●習ったその日から効果が感じられる
●一生続けられるほど内容が豊かである
●続ければ続けるほど心身が進化・成長する
●毎日続けられるよう10分間で全部復習できる

ということになります。


<ウォーター&ブレスの内容>
ウォーター&ブレスは三つの部分から成り立っています。

 第1部 ウォーター・トレーニング
 第2部 ブレス・トレーニング
 第3部 10分バージョン

第1部「ウォーター・トレーニング」は、効果的に呼吸法
を練習するための身体をつくる練習。

第2部「ブレス・トレーニング」は、そのできあがった身
体でする呼吸練習です。

そして第3部の「10分バージョン」は、毎日のウォーム
アップとして行なう練習。第1部「ウォーター・トレーニ
ング」と第2部「ブレス・トレーニング」の内容をコンパ
クトにまとめたものです。

さあ、それではトレーニングを始めましょう。

つづく。

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2005.7.28
ウォーター&ブレス 〜音楽家のための呼吸法〜
第二回 ウォーター・トレーニング前編

<水のような身体になる>
ウォーター&ブレスの第1部は「ウォーター・トレーニン
グ」といいます。これは「水のような身体になる」ため
の練習です。

なぜ「水のようになる」必要があるのか。それは自由に
動くためです。私たちは日常生活で、身体のいろんなと
ころを固めて、とても不自由な動きをしています。それ
をほぐしながら少しでも自由な身体を取り戻そうという
わけです。

呼吸も例外ではありません。ほとんどの人は自覚してい
ませんが、現代人の呼吸は浅く不自由なものになってい
ます。上手に吸えない、上手に吐けない、つまり自由に
コントロールできない。この状態からより自在な呼吸を
獲得するために、水のような身体を用意するのです。


<なぜ呼吸法をするか>
ところで、私たちは何のために呼吸法を練習するのでしょ
う? 息をたくさん吸って、節約して吐けるようになるた
めでしょうか?

たしかにそれも目的の一部ではあります。しかし、もっ
と大きな目的があります。それは「体幹部の開発」です。

体幹部とは胴体部分のこと。ここにはたくさんの骨、筋
肉、内臓が配置されています。スポーツでも武道でも、
あるいは芸術においても、人間の身体運動の質を高める
ためには、体幹部の開発が欠かせないといわれています。

手先だけで弾くピアノ、口先だけで吹くトランペットよ
りも、体幹部を総動員して楽器を演奏するほうが、より
豊かな芸術表現をなしうると考えられるのです。

したがって、呼吸法をトレーニングする目的は、第一義
的には「体幹部の開発」ということになります。体幹部
を開発するのは、ハイスペックなマシンを手に入れるよ
うなもの。よりすぐれたパフォーマンス(=演奏)を実
現するために、呼吸法で身体をバージョンアップするわ
けです。

<まずはおじぎから=メルトバウ>
ウォーター・トレーニングの最初は「メルトバウ」で
す。日本語でいうなら「とろける礼」でしょうか。これ
は挨拶としての礼やおじぎではなく、水のような身体に
なるための大事なトレーニングです。

したがって「非常識なほど」長い時間をかけて礼を行な
います。最低でも1分は上半身を前に倒したままキープ。
理想的には2分以上、頭を下げています。

1.まず直立してください。
2.両足の内側を平行にして10cm程度の幅で開きます。か
 なり狭い足幅です。
3.そのまま、上半身を前へ折ります。
4.ゆっくり、深々と、だら〜んと、沈みこむようにおじ
 ぎをしていきます。文字通り「とろける礼」です。
5.前屈しきったら、上半身の力を完全に抜きます。自分
 の上半身を「ぶらさげる」ような感じです。
6.このとき体重はカカトよりに乗せてください。
7.膝は軽く曲げます。
8.腕がずっしりと重く、手は腫れぼったく感じます。
9.腰の裏側あたりにストレッチがかかります。
10.この状態を1〜2分キープします。
11.そしてゆっくりと起き上がります。上半身の重みを
 よく感じながら上体を起こしてください。
12.直立した姿勢に戻ってください。

以上がメルトバウです。うまくできると、これだけで
身体が水のように感じられてきます。

<子供時代を思い出す=チャイルドタイム>
メルトバウから起き上がったら、「のんびり」した気分
になってください。まだ学校へ上がる前の、子供の頃の
ような気持ちです。

時間に追われることなく、予定にしばられることもない。
まったく急がない。のん〜びりとした、子供の時間です。
これを「チャイルドタイム」といいます。

ここで使うキーワードがあります。「てれ〜」です。全
身が水のようにタプタプしていて、気持ちはものすごく
のんびりしている。これを端的にあらわすのが「てれ〜」
というキーワードです。口に出していうと効果的です。

メルトバウで身体の重みを感じ、チャイルドタイムで
「てれ〜」っとする。ここまでがウォーター・トレーニ
ングの準備運動です。

次回はいよいよウォーター・トレーニングの本運動であ
る「フィッシュスイム」に入ります。

つづく。

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2005.8.4
ウォーター&ブレス 〜音楽家のための呼吸法〜
第三回 ウォーター・トレーニング中編

<背骨を左右にゆらす=フィッシュスイム>
まず大切なのは、のんびりすること。チャイルドタイム
で「てれ〜」っとつぶやく。全身がたら〜りと「垂れた
感じ」になっているはずです。

その「垂れ感」をキープしつつ、背骨を左右にゆら〜り、
ゆらりとゆらしてみましょう。「背骨」といっても最初
はわかりにくいでしょうから、全身を左右に振るだけで
も結構です。

急がないでください。のんびりと。力まないでくださ
い。「てれ〜」です。重要なのは動きよりも「てれ〜」
のほうなのです。

ゆっくりと、いたわるように、ゆら〜り、ゆらり背骨を
左右にゆらす。このとき自分の背骨をよく感じてみてく
ださい。それは「一本の棒」ですか? それとも「いく
つも節のあるもの」のように感じられますか?

言うまでもなく、背骨はいくつもの小さな骨の集合体で
す。左右にゆらせば「棒のように」ではなく、「鎖のよ
うに」動きます。もちろん、まだこういう動きに慣れて
いないので、最初からうまくはいかないでしょうけれど。

練習を重ねるにつれて、背骨はだんだんしなやかに動き
始めます。棒からチェーンに、やがてはムチがしなるよ
うになります。

魚類が泳ぐとき、背骨を左右に振りながら前進します
ね。この魚の泳ぎをまねて、背骨を左右にゆらすのが
フィッシュスイムです。


<背骨の構造と機能>
人間の背骨は、たくさんの椎骨(ついこつ)が積み重なっ
てできています。その内部には脊髄という神経の束が収
まっているので、全身をコントロールするうえでたいへ
ん重要な器官なのです。

背骨はけっして単なる突っかい棒ではありません。構造
的にも機能的にも、実に複雑かつ高度なものです。フィッ
シュスイムは、重要な背骨を徹底的に刺激し、開発しま
す。そうすることによって、現代人が封印している潜
在的能力を目覚めさせるのです。

背骨を構成する椎骨は、首の骨(頚椎)が七つ、胸の骨
(胸椎)が十二個、腰の骨(腰椎)が五つ、そして骨盤
にはまっている仙骨とその下にある尾骨からできていま
す。上は頭から下はおしりまで、二十六個の骨が連なっ
た「チェーン状の」長いもの、それが背骨なのです。


<フィッシュスイムのやり方>
1.まず頚椎からやってみましょう。頭を前へ倒して後頭
 部をさわると、ペコンとしたくぼみがある。その奥の
 ほうに第一頚椎があります。
2.そのまま指でつつっと下へなぞると、首の付け根にポ
 コンと飛び出した骨がある。そこが第七頚椎。つまり
 この間に七つの骨があるということです。
3.では、第一頚椎からやさしく、やさしく、の〜んびり
 と、左右にに小さく動かしましょう。魚が泳ぐように。
4.少しずつ下へ下へと下り、第二頚椎から第三、第四 ...
 そして第七頚椎まで、ゆっくりとゆらしていく。気分
 はあくまでものんびりと、からだはてれ〜っと。
5.やがて頚椎全体にとろっとした「垂れ感」が生まれる。
6.こうして頚椎をフィッシュスイムで動かしているうち
 に、首から肩、肩から腕の筋肉が次第にゆるんできま
 す。首から肩は軽くなり、腕は重く感じられる。
7.胸椎は胸(背中)の部分の背骨。肋骨がそこから生え
 ています。十二個の椎骨が連なっています。
8.胸椎は数が多いので、全体を四分割して、胸椎三つ分
 ずつを攻めます。まず第一〜第三胸椎を左右にゆらす。
 次に第四〜第六を、以下第七〜第九、第十〜第十二と
 ブロックごとに意識を移しながらゆらします。
9.腰椎は五つの大きな椎骨が連なっている。これもひと
 つずつゆらしていきます。のんび〜りと。
10.仙骨は骨盤にはまりこんでいる大きな骨。背骨全体を
 下から支えるように存在しています。これをゆらすの
 はなかなか大変ですが、てれ〜っと力を抜いて、のん
 び〜りした気分で左右に動かしましょう。
11.尾骨はおしりのところにあります。本物の魚になった
 気分で、尾びれを左右に振るように動かします。

フィッシュスイムにもキーワードがあります。それは
「ぬるぬる」です。背骨を左右にゆらしながら、椎骨の
間がぬるぬるしてくるのを感じます。動きが滑らかにな
ると、本当に「ぬるぬる感」が出てきます。

「てれ〜」「ぬるぬる〜」「てれ〜」「ぬるぬる〜」と
交互に口に出すと、一層効果的です。

つづく。

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2005.8.11
ウォーター&ブレス 〜音楽家のための呼吸法〜
第四回 ウォーター・トレーニング後編

<主客が転倒する=SOシフト>
さて、フィッシュスイムは、実はここから面白くなって
くるのです。はじめはボンヤリしていた「ぬるぬる感」
も、毎日繰り返すことで、だんだんはっきりしてきま
す。すると、背骨はあまり力を使わなくても、魚のよう
にしなやかに波打ち始めます。

フィッシュスイムは、もともとてれ〜っと力を抜いてや
るべきものですが、それがさらに力を抜くことができる
ようになります。

するといつしか「私が背骨を動かす」のでなくて「背骨
が私を動かす」というように感じられる。主客が転倒す
るのです。これを「SOシフト(えすおー・しふと)」
と呼びます。主体(subject=S)と客体(object=O)
が入れ代わる(shift)わけです。

一度でもSOシフトを経験すると、その不思議な感覚の
とりこになり、フィッシュスイムの練習が面白くて仕方
なくなります。

ですから、いったんウォーター・トレーニングを始めた
ら、なんとしてもこのSOシフトまでは到達したいもの
です。早い人は二週間目くらいから感じ始めるでしょう。


<ウォーターバッグが完成する>
いよいよウォーター・トレーニングの仕上げです。「て
れ〜」「ぬるぬる〜」を繰り返し、SOシフトを感じ続
けていると、やがて全身は水の入った大きな袋のように
感じられます。これを「ウォーターバッグ」といいま
す。フィッシュスイムの動きは徐々に止めます。

夜店で売っているヨーヨーをご存じですか? ゴム袋の
中に水を入れゴムひもをつけたオモチャです。ウォータ
ーバッグは、あのヨーヨーの感覚を全身に再現すると
思ってください。ちゃぷちゃぷという水の質感が身体を
包んでいます。

さて、頭のてっぺんに「百会(ひゃくえ)」というツボ
があります。両耳の上端から真上にあがったラインが出
会うところです。この百会にひもをつけて、天井から自
分の身体を吊り下げることを想像してください。ちょう
どウォーターバッグが天井から吊るされているような
かっこうです。これを「つるし」といいます。

次に、天井から百会を吊るしているひもに、全体重を乗
せて、あたかもそのひもにぶらさがるような立ち方をし
てみてください。全身が地中に向けてずり落ちていく感
じです。これを「ずりおち」といいます。

「ずりおち」は会陰(*)に向かって全体重が流れ落ちる
ように感じるとうまくできます。身体はウォーターバッ
グになって天井から吊るされている。体幹部すべての重
みを会陰で受け止め、脚にそって下へ流すのです。

 * 会陰(えいん)は、哺乳動物の「肛門と生殖器の間」
  をいいます。このあとブレス・トレーニングでも使
  うので、会陰の位置を身体で覚えておいてください。

ウォーター・トレーニングは立位で行ないます。つるし
とずりおちが効いてウォーターバッグが完成すると、全
身がずっしり重く感じられます。足の裏が床にめりこん
で痛いくらいです。

ここまでがウォーター・トレーニングです。こうして、
ようやくブレス・トレーニングを始める準備が整ったこ
とになります。


<第1部 ウォーター・トレーニングの復習>
目的:
 ●水のような身体になる。
方法:
 ●メルトバウ(長〜いとろける礼)
 ●チャイルドタイム(てれ〜)
 ●フィッシュスイム(ぬるぬる)
 ●SOシフト(背骨が私を動かす)
 ●ウォーターバッグ(つるし、ずりおち)


つづく。

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2005.8.18
ウォーター&ブレス 〜音楽家のための呼吸法〜
第五回 ブレス・トレーニング前編

<くらげの浮遊>
ウォーター&ブレス第2部は「ブレス・トレーニング」。
体幹部を開発するための呼吸法です。底部(会陰)、腹
部、胸部、肩部を別々に使えるよう練習します。

これは、いくつかのヨーガ呼吸法(プラーナーヤーマ)
を組み合わせたオリジナルな呼吸法で、かなり複雑な動
きをともないます。最初は難しく感じるかもしれません
が、すぐに覚えられます。慣れてくれば「自然な動き」
と感じられることでしょう。

この呼吸法には愛称がついています。ジェリーフィシュ・
フロート(Jellyfish Float)、日本語でいえば「くらげ
の浮遊」です。

第1部ウォーター・トレーニングで「水のように」なった
身体が、今度は海の中にいると想像してください。くら
げが、ぷか〜、ぷか〜と、開いたり閉じたりしながら水
中を漂う。あの感じです。

<ボトミングを練習しよう>
ジェリーフィッシュ・フロートがめざしているのは、体
幹部全体を柔軟かつ自由に使えるようになること。

体幹部の底(ボトム)にある会陰のトレーニングが「ボ
トミング」です。息を吸いながら会陰を引き上げ、吐き
ながら会陰を降ろす。これをボトミングの「すいあげー
はきさげ」といいます。

といっても、会陰の上げ下げは簡単ではないので、少し
練習してみてください。会陰を上げるのは難しいけれど
も、降ろすのもの意外にできないものです。

メトロノームを「四分音符=60」に合わせて、一拍目で
すいあげ、二拍目ではきさげ、三拍目ですいあげ、四拍
目ではきさげ...と、これを八小節やって休憩です。

会陰を上げ下げする感覚がわかってきたら、同じ要領で
「すいさげーはきあげ」も練習します。

ボトミングは体幹部を開発するうえでも、呼吸に上達す
るうえでも非常に重要なトレーニングです。短い時間で
構いませんから、かならず毎日練習してください。

<ニーノで呼吸する>
息は鼻から吸い(Nose In)、鼻から吐く(Nose Out)。
これを「ニーノ(NINO)」といいます。ジェリーフィッ
シュ・フロートでは、ニーノだけを使います。

口を使う呼吸法は「中級編」で扱います。これは喉の開
発(スローティング)や舌の開発(タンギング)と関連
付けながらやりたいからです。今のところはニーノを使
い、体幹部開発に集中しましょう。

<チョーク度について>
ニーノで呼吸しながら、喉の状態を観察します。喉が完
全に開いてなめらかに空気が出入りしている状態をノー
チョーク(No Choke)と呼びます。喉を完全に閉じて空
気の出入りができない状態、これがオールチョーク(All
Choke)です。

その中間に3段階の「チョーク度」を想定し、軽い方から
順にライトチョーク、ミドルチョーク、ヘビーチョーク
と呼びます。つまり全部で5段階のチョーク度を設定する
わけです。

 1 ノーチョーク (チョーク度 0%)
 2 ライトチョーク(チョーク度 25%)
 3 ミドルチョーク(チョーク度 50%)
 4 ヘビーチョーク(チョーク度 75%)
 5 オールチョーク(チョーク度 100%)

ジェリーフィッシュ・フロート初級では、ノーチョーク
(吸いと吐きのとき)と、オールチョーク(止めのと
き)のみを使います。これも体幹部開発に意識を集中す
るためです。

喉を全開して鼻から息を十分に吸う。そして喉をピッタ
リ閉じて息を止める。最後に喉を全開して静かに息を吐
いてみましょう。


<九小節でワンサイクル>
メトロノームを「四分音符=60」に合わせ、四拍に一回
チャイムが鳴るようにセットしてください。四拍で一小
節、これを九小節繰り返してワンサイクルです。

では、次回はジェリーフィッシュ・フロートの前半部分
を解説します。

つづく。

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2005.8.25
ウォーター&ブレス 〜音楽家のための呼吸法〜
第六回 ブレス・トレーニング中編

<第1小節は「吸い」です>
全身が「てれ〜」っと垂れ、気持ちはチャイルド・タイ
ムで「のん〜びり」しています。

ジェリーフィッシュ・フロートは立ったままやっても構
いませんし、椅子に腰かけてもいいです。いずれにして
もウォーターバッグで「つるし」と「ずりおち」をよく
感じてください。メトロノームを鳴らしながら、4拍分、
鼻から息を吸います(ノーチョーク)。

はじめの2拍はウォーターバッグのお腹へ「たっぷん」
と、次の1拍は胸へ「むにゅっ」と、最後の1拍は肩を上
げながら「もりもり」と吸い入れます。

会陰は降ろしたまま(すいさげ)です。これを「ボトム
= Down」と表記します。

 【第1小節】 ボトム= Down 
 2拍腹へ吸い 1拍胸へ吸い 1拍肩へ吸う

<第2〜5小節は「止め」です>
ここで楽に喉を閉じ(オールチョーク)、同時に会陰を
引き上げます(ボトム= Up)。

「楽に」というのがポイントです。肩は上がっています
が、あくまでも全身はウォーターバッグ。「つるし」
「ずりおち」を効かせてください。顔は微笑みます。

 【第2小節】 ボトム= Up
 4拍楽に止める 微笑

第3小節は、ボトム= Up のまま、息を止めたまま、肩を
降ろし、胸の力を抜きます。このとき、腕がぶらんと重
く感じたら理想的です。顔は微笑んだまま。

 【第3小節】 ボトム= Up
 4拍止めたまま 肩を降ろし、胸部脱力 微笑
 腕がぶらんと重い

第4小節は、ボトム= Up のまま、息を止めたまま、横隔
膜を降ろして腹圧をかけます。腹部の内から外へ圧が加
わるのを感じてください。顔は微笑んだまま。

 【第4小節】 ボトム= Up
 4拍止めたまま 内から外へ腹圧をかける 微笑

第5小節は、4拍止めたまま、会陰を降ろし、腹圧を解き
ます。顔は微笑んだまま。

 【第5小節】 ボトム= Down
 4拍止めたまま 腹圧を解く 微笑

<ここで息を吐きましょう>
ひとまず息を吐いてください。

ここまでで、1小節吸って、4小節止めた計算になります。
肩や会陰を上げたり降ろしたり、胸や腹に入力したり脱
力したり、体幹部にめまぐるしい動きがあります。

  これらの動きによって、骨盤底筋群、腸腰筋、腹横
  筋、横隔膜、内外肋間筋を活性化します。また緊張
  しがちな僧帽筋のリラックスも促します。さらに内
  臓のマッサージ効果もあり、体幹部全体を柔らか
  く、自由に使う基礎を作ります。

どんなときでも「楽に」「微笑んで」やるのがコツで
す。全身は「てれ〜」、気持ちは「のん〜びり」、そし
てウォーターバッグで「つるし」「ずりおち」。

この手順は複雑に見えますが、その気になれば習った日
のうちに覚えられると思います。やり方を覚えてしまえ
ば、あとは精度を高めるために練習を繰り返すだけです。

次回はジェリーフィッシュ・フロートの後半部分を解説
します。

つづく。

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2005.9.1
ウォーター&ブレス 〜音楽家のための呼吸法〜
第七回 ブレス・トレーニング後編

<第6〜7小節は「吐き」です>
「楽に」「微笑んで」「てれ〜」「のん〜びり」、そし
てウォーター・バッグで「つるし」「ずりおち」「微
笑」を確認してください。

第1小節で吸い、第2〜5小節まで止めます。ここか
ら「吐
き」に入ります。会陰は降ろしたまま、鼻から静かに吐
きます。ここでの最重要ポイントは「静かに」です。

ビールをクイクイッと飲んだあとのように「プハーッ」
と吐いてはいけません。一切音を立てないつもりで、誰
にも聞こえないくらい静かな息を吐いてください。これ
も重要な「呼気(=吐く息)の制御」です。

 【第6小節】 ボトム= Down
 4拍 音をたてずに吐く

第7小節で、ふたたび会陰を引き上げます。さらに腹を
ギュウッと凹ませながら、息を吐き切ります。体幹部を
下からしぼり上げて、息を残らず出してしまいます。 

 【第7小節】 ボトム= Up
 4拍 腹を凹ませつつ吐き切る 

このとき、身体が前傾しないように注意してください。
ウォーターバッグ、「つるし」「ずりおち」です。


<第1〜7小節は「鍛え」第8〜9小節は「癒
し」>
前半の7小節、つまり1小節吸って、4小節止めて、
2小節吐く。これがジェリーフィッシュ・フロートの
「鍛え系」パート。続く後半の2小節は「癒し系」で
す。

 【第8小節】 ボトム= Down
 4拍 仙節へ吸息 

 【第9小節】 ボトム= Down
 4拍 全身へ呼息

「仙節(せんせつ)」というのは、会陰から真上に上が
るラインと、仙骨の中央を前後に貫くラインとの交点。
このあたりに向かって息を集めるように吸います。実際
には鼻から吸いますが、仙節が息を吸い集めているよう
な感覚です。

第9小節では、仙節から全身へ向けて息を吐き広げていき
ます。つまり「吸いながら閉じ」「吐きながら開く」と
いう意識操作をするわけです。このときもニーノかつノ
ーチョークを忘れずに。

<体幹部を総合的に開発する>
以上9小節(7小節+2小節)がジェリーフィッ シュ・フ
ロートのワンサイクルです。底部の開発(ボトミング)、
腹部の開発(アブドメニング)、胸部の開発(チェスティ
ング)、肩部の開発(ショルダリング)を呼吸と合わせ
て行なうものです。

  中級編では、喉の開発(スローティング)および舌
  の開発(タンギング)を組み合わせて、口を使った
  呼吸法に発展していきます。

ウォーター&ブレス第2部「ブレス・トレーニング」は、
第1部ウォーター・トレーニングで用意した「水のような
身体」を自由自在に動かせるように練習します。その結
果、深く、柔らかく、精密な呼吸のコントロールができ
る身体へと少しずつ成長していきます。

ウォーター&ブレスを本格的に練習する場合、最初の1時
間をウォーター・トレーニングに、続く30分をブレス・
トレーニングにあてて、90分をワンレッスンとします。

ただし、それは「本格的に」トレーニングする場合。こ
れだけの練習時間を毎日とれるほど恵まれた人は限られ
るでしょうから、手軽に復習しながら徐々に身体を変え
ていく方法も必要です。

それがウォーター&ブレス第3部の「10分バージョン」で
す。次回は「10分バージョン」を解説します。

つづく。

呼吸を変えれば音楽は変わる!
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2005.9.8
ウォーター&ブレス 〜音楽家のための呼吸法〜
第八回 ウォーター&ブレス10分バージョン

<ウォーター&ブレスを復習しよう>
さあ、ウォーター&ブレスを10分間で復習してみましょ
う。4秒 x 9小節 = 36秒 でワンサイクル。
10分(600秒)を36秒で割ると、約17サイクルになりま
す。60 に合わせたメトロノームを鳴らしながら練習です。

サイクル01 
 メルトバウ。ゆっくり上体を倒していきます。
サイクル02
 メルトバウを味わいます。6小節目から4小節間かけ
 てゆっくり上体を起こしていきます。
サイクル03
 「てれ〜」っとつぶやきつつチャイルド・タイムを感
 じます。
サイクル04
 首のフィッシュスイムです。頚椎1〜7番をひとつず
 つ動かし、最後に頚椎全体をゆらします。
サイクル05
 胸のフィッシュスイム。胸椎1〜9番を動かします。
サイクル06
 胸のフィッシュスイムのつづき。胸椎10〜12番を動
 かします。つづいて胸椎の上半分、そして下半分をの
 んびりとゆらします。
サイクル07
 腰のフィッシュスイム。胸椎1〜5番を動かします。
 最後に腰椎全体をてれ〜っとゆらします。
サイクル08
 仙骨〜尾骨にかけてのフィッシュスイムです。
サイクル09
 背骨全体のフィッシュスイムです。「てれ〜っ」と
 言いながら、のんびり、ぬるぬるのフィッシュスイ
 ムを味わってください。
サイクル10
 背骨全体のフィッシュスイムを続けます。SOシフト
 を感じてください。「私が背骨を動かす」から「背骨
 が私を動かす」へと移行します。
サイクル11
 フィッシュスイムの動きは徐々に止まります。SOシ
 フトは感じたまま、ウォーターバッグの身体を確認し
 ます。百会からの「つるし」、会陰への「ずりおち」
 をよく感じてください。
サイクル12
 ジェリーフィッシュ・フロートの1回目。
サイクル13
 ジェリーフィッシュ・フロートの2回目。
サイクル14
 ジェリーフィッシュ・フロートの3回目。
サイクル15
 ジェリーフィッシュ・フロートの4回目。
サイクル16
 ジェリーフィッシュ・フロートの5回目。
サイクル17
 ジェリーフィッシュ・フロートの6回目。


<密度の濃い10分間>
ウォーター&ブレス10分バージョンを経験すると、それ
がいかに密度の濃い10分間か実感いただけるはず。日常
の意識状態からあっという間に離れることができます。

「10分バージョン」には二つの使い方があります。ひと
つは、これを日々のトレーニングとして使うことです。
毎朝かならず「10分バージョン」をやってから顔を洗う
とか、自分の生活の中に組み込んでしまうのです。寝る
前にやっても構いません。大事なのは、これを習慣にし
てしまうことです。

もうひとつの使い方は、楽器練習のウォームアップとし
て「10分バージョン」をやる。いきなり楽器をさわらな
いで、まず「10分バージョン」をやって心身を整えてか
ら練習を始めるのです。

もちろんこれらを併用しても結構です。目覚めとともに
「10分バージョン」、練習前に「10分バージョン」、就
寝前に「10分バージョン」のように、1日3セットと
いう
コースもあります。


<ロング・バージョン>
もしもウォーター&ブレスに20分の時間をかけられるよ
うなら、前半の15分間をウォーター・トレーニング、後
半の5分間をブレス・トレーニングにあててください。全
体が30分の場合は、ウォーター20分、ブレス10分で
す。

ウォーター&ブレスを繰り返すほど、体幹部が開発され
てきます。やがて身体の中、つまり内臓、筋肉そして骨
格のようすが、よく感じられるようになります。

次回はトレーニング・テープを使った練習法です。

つづく。

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2005.9.15
ウォーター&ブレス 〜音楽家のための呼吸法〜
第九回 トレーニング・テープの使い方

<いまどきレトロなカセットテープ>
ウォーター&ブレス10分間バージョンを手軽に練習する
ために、トレーニングテープを作成しましょう。

録音するのは、デジタル・オーディオ・プレーヤーで
も、MDでも、CD-Rでも、ICレコーダーでも、なんで
も構
いません。私は、レトロなカセットテープを使います♪

●メトロノームを60(もしくは46)に合わせて鳴らす。
●4拍ごとにチャイムが鳴るよう設定する。
●4拍ごとのチャイムに合わせて「いち」「に」「さん」
 ...「きゅう」まで録音する。
●これを17回(46BPMの場合は13回)繰り返すと10分
 テープの片面が埋まる。
●両面に同じ内容を録音する。


【2012.11.19 追記】
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<ベーシックな使い方>
テープをかけながら、前回ご紹介した「10分バージョ
ン」をそのままやります。あれこれ考えずに、とりあえ
ずテープを鳴らしてしまう。すると自然にトレーニング
が始まるという寸法です。


<ウォーター・トレーニングに使う>
なんとなく身体が固まってるなあと感じたら、片面10分
間を全部使ってウォーター・トレーニングにあてても構
いません。練習の合間の休憩時間に軽く「ウォーター・
ブレイク」をとる感じですね。


<ブレス・トレーニングに使う>
片面10分間をすべてブレス・トレーニングにあてるのも
よいものです。気をつける点は「力を入れないこと」。

こちらも休憩時間の「ブレス・ブレイク」として使えま
すね。いうまでもなく、ジェリーフィッシュ・フロート
は深呼吸ですから、練習が行き詰まったりしたときの気
分転換には最適です。頭をリフレッシュできます。


<パジャマで出かける呼吸旅行>
寝る前、ベッドに入ってから小さなボリュームでテープ
を流します。ソフトにソフトにジェリーフィッシュ・フ
ロートを繰り返すと、ここちよい眠りが訪れるでしょう。

布団の中で、イメージを使ったウォーター・トレーニン
グもできます。静かに身体を横たえて、メルトバウして
いるところをイメージする。かすかなフィッシュスイム
をしながら、いつしかSOシフト、ウォーターバッグへ
と移行しつつ眠りに入ります。


<覚醒ブレスですっきり>
朝、タイマーで自動的にテープがかかるようにしておけ
ば、目覚まし替わりになるでしょう。イメージによる
ウォーター・トレーニング、そしてジェリーフィッシュ・
フロートを力強くやることで、爽やかな一日の始まりで
す。


<動くトレーニングルーム>
乗り物での移動中はトレーニングにぴったりです。電車、
バス、飛行機など、イメージを使ったウォーター・トレ
ーニングとジェリーフィッシュ・フロートで、いつでも
どこでも復習ができます。


<本番前のひとときを>
楽屋やステージ袖でテープをかけていれば、精神安定剤
代わりになるでしょう。もちろん実際にウォーター&ブ
レスをやっても構いません。


<最後に>
ウォーター&ブレスは、7年間(1992〜1999年)の
独習、3年間(1999〜2002年)の意見交換、3年間
(2002〜2005年)の勉強会を経てまとめたトレーニ
ング方法です。

この13年間にはさまざまな試行錯誤がありました。そし
て最近の3年間は、神武会メンバーの協力によって多くの
発見がありました。

この場をお借りして、まっきいさん(ご夫妻)、コマサ
さん、美和子さん、さやきゅーさん、むむす関係者ほか、
協力者のみなさんにお礼を申し上げます。ありがとうご
ざいました。

神武会は今後も私的勉強会(非公開)として続けていく
つもりです。ただウォーター&ブレスについては、ご希
望があれば出張勉強会も検討します。お気軽にお問い合
わせいただければ幸いです。

完。


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投稿者 kurosaka : 2005年9月15日