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ジャズの殉教者

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モダンジャズの歴

今春、コルトレーン研究家の藤岡靖洋氏が岩波新書から
「コルトレーン_ジャズの殉教者」を出版されました。
著者ご自身から一冊頂戴していたのですが、3月~5月
はツアーやその準備で忙殺されていたため、なかなか本
を読む気分になれませんでした。

ようやく仕事が一段落したので、いただいた本を読んで
みてびっくり。これは生半可な評伝ではなく、壮大にし
て緻密な歴史書と呼ぶにふさわしい内容です。

ジョン・コルトレーンというサックス奏者の人生を通し
て、モダンジャズの歴史を学ぶことができる。論ずるこ
とよりも叙することに徹したストイックな文章は読みや
すく、コルトレーンの生きた社会環境、その音楽、与え
た影響、到達した宗教観などがストレートに伝わってき
ます。

まちがいなくジャズの一級資料であり、学生や社会人を
含めてすべてのジャズプレイヤーが一読すべき教科書で
もあります。


解きの魅力

以前「剣の精神誌」という書物を紹介したことがありま
す。江戸中期に活躍した、日本剣術史上最強とも噂され
る天才剣士・真里谷円四郎について甲野善紀氏が鬼気迫
る執念で調べあげた労作です。

藤岡氏の「コルトレーン_ジャズの殉教者」にもそれと
似たにおいを感じます。ここまで調べあげてまとめるに
は、もはや「情熱」とか「努力」ではまったく不足で、
ある種の「狂気」がなければ達成できないでしょう。ま
さに「トレーンの殉教者」たらんとする迫力です。

各地に残された資料や証言、録音、社会情勢などをつな
ぎあわせてコルトレーンの実像を描き出していく過程は、
推理小説の謎解きを読むような痛快さです。

余談ですが、第3章の第2節「静かなる抵抗」で描写され
る人種差別の実態には戦慄を禁じ得ません。頑迷な人種
差別主義者たちの卑劣で暴力的な行動と、シットインに
代表される非暴力的手段による抗議活動は、現在の私た
ちが自分の問題として考えるべきテーマだと思います。

さて本書が名著であることは疑いもありませんが、それ
だからこそ最後にひとつだけ校正ミスの指摘を。

ソプラノサックスは、テナーサックスと同じEbキーであるため (p106 5行目)
言うまでもなく、どちらも「Bb」キーですね。

けっしてあら探しをしているわけではありません。岩波
新書でもこんな単純なミスがあるんだなと微笑ましく感
じた次第であります。

ジャズ史に残る名著です。学生諸君もぜひ読んでみてく
ださい。

藤岡さん、お疲れさまでした。ますますのご活躍を期待
しております。

2011年5月27日(金)

投稿者 kurosaka : 2011年5月27日