ワールド・プロジェクト・ジャパン  〜 合奏音楽のための国際教育プロダクション 〜


初見と即興

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あくまでも一般論ですが、多くのアメリカの一流ミュージシャンのクリニックを通訳してきて、日本とは異なるところに練習の重点を置いていると感じます。

日本の学校バンドの多くは、ひとつの曲に多くの時間をかけて練習し、細部まで徹底的に練り上げるのを中心課題にする傾向が強い。つまり「完成化」です。

一方、アメリカのスタジオあるいはジャズミュージシャンが口を揃えて強調するのは、「初見」「即興」の2点です。初見については、同じ曲を何度も練習しない、次々と違う譜面に触れていろんな音楽のスタイルに慣れる、などが指導されます。

即興については、目を使わないで耳を使って練習しようというアドバイスがなされます。たとえばメジャースケールの1度、2度、3度、5度(ドレミソ)というモチーフを使って、それを4回繰り返す。次に半音上げる、さらに半音上げる...と繰り返し、すべてのキーで練習する。これを譜面に書かないで、頭の中でやるわけです。

また5度、3度、2度、1度(ソミレド)を使って上から半音ずつ降りてくる練習。さまざまなアーティキュレーションを組み合わせる。メジャースケールで違うモチーフを作る、マイナースケールでもやってみる、その他のスケールでもやってみる、など無数の練習を作ることができます。これをすべて頭の中でやる。

海外講師を招いたバンドクリニックでは、指導する側と受講者側の認識が違うのを感じます。日本のバンドは与えられた時間(たとえば1時間)で1曲の、あるいはせいぜい2曲の細部を磨き上げてもらいたい。けれども指導する側はざっと聞いて課題を洗い出したら次の曲に進もうとします。

私の経験では、アメリカの大学音楽学部でバンドクリニックを受けると、1時間で5〜6曲、多いときは10曲近くを次から次へと指導します。曲を覚えてしまわないうちに次の曲へ進むわけです。こういう練習を繰り返すことで、音楽の全体像を直感的につかむ能力を磨いているのだと思われます。

1曲の完成度を高めるのが「閉じる」練習だとすれば、初見と即興に重点を置くのは「開く」練習と表現できるかもしれません。どちらかを肯定してどちらかを否定するのではなく、アプローチの違いに着目することで多くの学びが得られるのではないかと思います。

投稿者 kurosaka : 2023年5月 6日