ワールド・プロジェクト・ジャパン  〜 合奏音楽のための国際教育プロダクション 〜


ウエイン・バージロンのトランペット講義録

  • Check

高い音ほど口を突き出す
「唇はクッションだ」、ウエインは言う。ハイノートを出すときに唇を横に引くと、マウスピースと前歯の間の肉が薄くなってしまい、結果として唇を痛めやすい。だから、音域が高くなればなるほど、口を前へ突き出すつもりで吹く。唇をクッションとして利用し、それによって唇をみずから保護するのが、ウエインのハイノート奏法だ。



アパチュアは閉じない
アパチュア(上唇と下唇のすき間)を平たい形にしないで、なるべく楕円形になるようこころがける。ウエインのハイノートが、「蚊の鳴くような」か細い音ではなく、脳天につきささるような気持ちよさなのは、この楕円状のアパチュアに秘密があるという。

トランペットという楽器は、唇を振動させて、管でそれを増幅すると考えられてきたが、よい音はそういうメカニズムからは生まれない。美しい音色を持つトランペット奏者は、アパチュアを大きく開け、息の流れを止めることなく、管楽器全体を振動させて音を作るのだ。



息を半分捨てる練習
管楽器を習うとき、「思いっきり息を吸いなさい」、「たっぷりの息で吹くように」と教えられる。しかし、ウエインはこの呼吸法がハイノートの弊害になっているという。

「吸い込んだ息を半分吐き捨てて、それからハイノートを吹いてごらん」。たしかに高い音を出すからといって、そんなに大量の息が必要なわけではない。むしろ、多くの空気を一気に送り出そうとすることは、体内の圧力を高め、めまいの原因ともなる。

大切なのは息の量ではなく、そのスピードをどうコントロールするかだ。だから、吸った息を半分捨てて音を出す練習で、息の使い方、体の使い方をつかむことが重要なのだ。



基本はミドルC
音域を広げる練習をする。基本となるのはミドルC(チューニングで使う実音Bb)だ。このアムブシュアをなるべくキープしたまま、上下両方向に音域を広げていく。高い音は高音用のアンブシュア、低い音は低音用というのではなくて、いつでも「ミドルCのアムブシュア」で吹く練習をするのだ。

リップスラーや跳躍のトレーニングを、すべてミドルCのアンブシュアで行い、毎日少しずつ音域を広げていくことで、どんな曲にも対応できる本物の音を身につける。



きめ細かい観察
「日々の練習をただの作業にしてはいけない」。たとえばウォームアップをする時も、たえず自分のベストコンディションと現在の状態を比較し、確認しながら練習する。漫然と音を鳴らしてはいけないのだ。

ここで細かな観察能力が必要となる。つねに自分の音と体をチェックし、わずかな違いを発見しては修正していく、そういう緻密なトレーニングを積み重ねることが上達の秘訣だからだ。
 
ウエインはロサンゼルスのスタジオで、シンセサイザーと一緒にプレイする機会が多くある。そんなときに求められるのは、きわめて正確なピッチである。なにしろ、相手はコンピュータ制御の楽器、それに正しい音程で合わせるためには、並はずれた繊細な観察能力が要求される。



ベースの音を聞け
バンド全体のサウンドをまとめるために、リードトランペットはベースを聞くべきだ。ウエインは、ビッグバンドで演奏する時に、いつもベースのピッチに合わせて演奏する。バンドの中で最高音を吹いている自分と、最低音を受け持つベースが合っていれば、あとのメンバーがとても演奏しやすくなるからだ。

トロンボーンやサックスも、リード奏者がベースをよく聞いて、それに合わせた方がいいのは言うまでもない。



初見の重要性
初見で大切なのは、音を間違えないことではなく、音楽の流れを正しくつかむことだ。初見読みは音符読みのトレーニングではなく、「音楽」を大きな視点から理解するための練習と位置付けるべきなのだ。
 
日本のアマチュアバンドは、ひとつの曲を集中的に練習することには慣れているが、それでは「音符」を体が覚えてしまうため、音符と音符の間につまった「音楽」を理解(=表現)できない場合がある。
 
今自分が「レンガを積んでいる」と考える人と、「大聖堂を建てている」ととらえる人とでは、同じレンガ積みという行為がまったく異なる意味を持つ。同様に、音符を鳴らすのと、音楽を奏でるのとは、明らかに違うことなのだ。
 
ウエインのようなスタジオ・ミュージシャンは、早く正確に譜面を読むことが、職業としての基礎技能である。しかし、初見読みに熟達することによって得られるのは、音符の背後に隠れた、音楽そのもののメッセージなのだとウエインは言う。



聞き合うこと
「譜面から離れる練習をしなさい」、譜面の達人ウエインが、意外な言葉を口にした。譜面に没頭してはいけない、いつも演奏者同士で聞き合うことが大切だ。サイド(2番、3番、4番)を吹く人はリード(1番)を聞き、リードはベースを聞き、リズム隊はホーンセクションの動きやボリュームを聞く。譜面から解放され、お互いの音を聞き合ってはじめて、音楽が生きたものとなる。



自分が一番の先生
クリティカル(critical)という言葉を、ウエインはよく使う。直訳すれば「批判的」という意味だが、ネガティブなニュアンスではない。自分の演奏をクリティカルに聞く能力を身につけよとは、先にもふれた通り、自分のプレイを細かく観察し、チェックしながら練習・演奏しなさいということだ。

先生から教わるのもいい、教則本で学ぶのもいい、でも一番の先生は自分自身の中にいる。毎日の練習をクリティカルに行うことで、自分が自分にとって最高の教師となるのだ。

投稿者 kurosaka : 2018年11月 1日