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【追悼】ティク・ナット・ハン禅師

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2022年1月22日、ティク・ナット・ハン禅師が95歳で逝去された。臨済宗の僧侶でありながら、その教えは禅宗はもとより仏教の枠も超えた普遍的な思想哲学だった。

世界的な著名人であり著作も多いので、その活動や功績をここで述べることは控える。むしろ私の個人的な学びについて記し、ティク・ナット・ハン禅師への追悼としたい。

東南アジアで800人近いボートピープルを助けようとしたときのことだ。シンガポール政府に上陸と保護を求めたが却下され、24時間以内に国外退去を命ぜられた。

800名の命がかかる瀬戸際の重圧の中で禅師は思った。今この困難な最中に平和を見い出さないのなら、どこに行ったって見つけられるわけはない、と。

そして宿泊していた小さな部屋で、一晩中ひとり「歩く瞑想」を続けた。この極限状態で心に浮かんだのは、「平和を望むならば、平和はその瞬間にあなたとともにある」という言葉だった。驚いたことに、心は静まって恐れも心配も消えていた。禅師の心痛は霧散していたのだ。それは本当に静かで平和な心の状態だったとか。

夜明け頃、突然に妙案が閃いた。フランス大使に調停を頼んでみようと。シンガポールにあと10日残れたら難民たちを安全に救出できる。フランス大使館が開く8時まで、外に出て歩く瞑想を続けた。  

フランス大使館で事情を説明すると、大使はシンガポール政府に10日間の滞在許可を求める手紙を書いてくれた。その書簡を受け取るや移民局に走り、移民局は外務省につないでくれた。正午直前に滞在延期許可が出て、残った15分で移民局に駈けもどり、やっとのことで10日間のビザの延長が間にあったそうだ。

ティク・ナット・ハン禅師は言う。「パニックを起こしてるときは、何をすべきかなど判りません。 しかし呼吸すること、微笑むこと、歩くことを実践する中で、解決法はおのずから現れるでしょう」と。

壮絶な困難の数々と向き合って95年を生き抜いたティク・ナット・ハン禅師の生涯に、そしてその簡潔で深遠な教えに心の底から感謝の意を表したい。

ありがとうございました。

投稿者 kurosaka : 2022年1月22日