ワールド・プロジェクト・ジャパン  〜 合奏音楽のための国際教育プロダクション 〜


アメリカでジャズ三昧!

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  ニューヨーク&ワシントン同時多発テロ直後の2001
  年9月に、カリフォルニアで開催された「モントレ
  ー・ジャズ・フェスティバル」のレポート(9.18〜
  25)。神奈川の社会人ビッグバンド Fujisawa Swing
  Jazz Society のツアーを伝える。
  
http://fsjs.fc2web.com/formonterey.htm


<戦時下のアメリカへ>
9月11日に起きた、ニューヨーク世界貿易センタービル
およびアメリカ国防総省へのテロ事件と、それに対する
報復計画で、アメリカは「戦時下」にあるといえます。

神奈川県藤沢市の社会人ビッグバンド Fujisawa Swing
Jazz Society(以下FSJS)のアメリカ公演は、そんな特
殊なムードの中で敢行されました。

出発日、成田空港は、がらーんとしています。飛行機も
空いています。ところが、サンフランシスコに到着して
みると、まあ、いつもと変わらない雰囲気でした。アメ
リカ国民も、つとめて平常通りの生活をするように心掛
けているようです。

FSJSは、フィッシャーマンズワーフ、ゴールデンゲート
ブリッジ、クリフハウス、ヘイトアッシュベリーなどの
観光を楽しんだあと、譜面屋さん(Byron Hoyt)を訪問。
ここでの滞在は1時間ほどなのですが、「3日あっても足
りない」という人もおられました。


<サンフランシスコ近郊でのコンサート>
FSJSは、モントレー入りする前に、サンフランシスコ近
郊で、3回のコンサートと1回のワークショップを予定し
ていました。

1. ライブハウスPearl'sでのジャムセッション
2. Los Medanos College でのワークショップ
3. Los Medanos College でのコンサート
4. USバークレーでのコンサート

1.2.3.までは順調に進み、お客さんの反応もたいへんよ
かったのですが、UCバークレーでのコンサートはキャン
セルになりました。急進的なことで知られる同校の学生
たちが反戦集会を開催したため、暴動の懸念ありとして、
地元警察からコンサートにストップがかかったのです。

演奏ができないかわりに、同校のBevan Manson先生がワ
ークショップをしてくださいました。Los MedanosのJohn
Maltester先生の話と総合すると、FSJSは以下のような
指導を受けました。

* 4拍目の裏の8分音符が早くならないよう注意すること。
* トランペットのシラブルを、曲によって ta から da
 に(高音域では di に)変えてみる。
* ドラムとベースは(4ビートの曲で)2拍・4拍をより
 強調して演奏するよう心がける。
* 曲の途中でリズムパターンが変わる場合は、コントラ
 ストをはっきりつけるほど面白い。
* ソリストは、他の楽器との「会話」を成立させるため
 に、フレーズを8分音符で埋めつくさない。なるべく
 スペースを作ること。
* ソロをシンコペーションの連続にすると単調なので、
 変化をつけること。
* ソロは、シンプルなモチーフからスタートして、これ
 を展開していく。フレーズ同士が不連続にならないよ
 う注意。
* ヴォーカルもののイントロは、ヴォーカリストが浴び
 るスポットライトを、バンドが浴びているかのような
 華やかさで演奏しなければならない。歌が始まったら、
 主役は歌い手に移るので、そこまでの短い時間で、ム
 ードを作りあげる。
・・・などなど。


<いざモントレーへ>
サンフランシスコからバスで2時間ほど南下すると、そ
こが港町モントレー。美しい海岸線、水族館、ゴルフコ
ース、ワイナリー、そして文化的な雰囲気の隣町カーメ
ルなど、豊富な観光資源を有するリゾート地でもありま
す。世界でもっとも長い歴史を誇るジャズ祭「モントレ
ー・ジャズ・フェスティバル(以下MJF)」は、そんな
素晴らしい環境の中で開催されます。

モントレーに到着したFSJSのメンバーは、休む間もなく
フェスティバル会場へ向かい、コンサートの準備。アー
ティストとスタッフのための前夜祭(バーベキュー・パ
ーティー)で、演奏を披露するためです。

Heat's On
Almost Like Being in Love
I'm Beginning to See the Light
Lover Come Back to Me
Round MIdnight
Portrait Louie Armstrong

などを演奏したFSJSは、会場を大いに盛り上げました。


<MJFの特徴>
「ジャズがなくても楽しいお祭」。MJFを一言で表現す
るなら、こういえるでしょう。多くの日本のジャズフェ
スは「大きなコンサート」であって、祭になっていない。
ところが、MJFは、本当に、「祭」なのです。

もちろんそこで提供されている「ジャズ」も半端でなく
クオリティは高いのですが、それを上回るエネルギーが
祭であろうとすることに費やされているのです。

たとえば、MJFは売店が非常に充実しています。会場を
埋めつくすテントブースの群れ。そこではリブステーキ、
フルーツ、アイスクリーム、焼きとうもろこし、ホット
ドッグ、中華料理、照り焼きチキン、ケイジャン料理、
バーベキュー、ソーセージなどバラエティに富んだ食事
が提供されます。

また、Tシャツ、トレーナー、ポスター、帽子、ベスト
などのグッズも充実。さらに、ガラス細工、民族工芸品、
カバン専門店、アクセサリー店、レコード店からマッサ
ージサービスにいたるまで、所せましと軒を連ねている
のです。

フェスティバル会場内には大小7つのステージが設けら
れ、それらを取り囲むように、100近いテントブースを
配置。「ジャズがなくても楽しい」のは、飲食物販店の
充実によるところが大きいでしょう。


<7つのステージでショウが同時進行>
MJFのもうひとつの特徴は、歩き回れる範囲内に、7つも
のステージが設けられていて、ショウが各会場で同時進
行していることです。まず、これらのステージをご紹介
しましょう。

1.ジミー・ライオンズ・ステージ
 MJF創始者である故ジミー・ライオンズ氏の名前にちな
 んだメイン・アリーナ。収容人員約7000人。ふだんは
 ロディオや家畜の見本市に使われる広大な会場です。

2.ガーデン・ステージ
 立ち見を入れて800名程度のキャパを持つオープンな
 野外ステージ。売店でショッピングしているときも、
 ガーデン・ステージの演奏が聞こえてくるので、会場
 はジャズムードに包まれます。先述の前夜祭は、この
 会場を使って行われます。

3.ナイトクラブ
 もともとは夜だけ使われていた屋内ステージなので
 「ナイトクラブ」と呼ばれています。出演者が増えた
 現在では、昼の部でも演奏が行われます。収容人員は
 400名程度。

 FSJSは、ここナイトクラブで、2セット演奏しました。
 満員の会場はスタンディング・オベーション。たいへ
 ん盛り上がりました。

4.ディジーズ・デン
 Dizzy's Den。「ディジー・ガレスピーのすみか」と
 いうような意味です。収容人員は約600名の屋内ステ
 ージ。「第2ナイトクラブ」として設けられました。

5.コーヒーハウス・ギャラリー
 第3の屋内ステージ。キャパは約200名で、ライブハウ
 スのような雰囲気が人気です。

6.ジャズ・シアター
 400席ほどの屋内会場に大型スクリーンを設置。ジミ
 ーライオンズ・ステージの演奏を生放送しています。
 メイン会場で見るよりも大きく見えるし、夜は暖かい
 のが嬉しい(モントレーの夜は寒いのです)。

7.コートヤード・ステージ
 フェスティバル会場入口正面に設けられた、小さな野
 外ステージ。おもに楽器のデモ演奏などに使われます。


<フェスティバルは5部構成>
以下は「ジミー・ライオンズ・ステージ」に出演したア
ーティストをまとめたものです(あまりにすごいライン
ナップなので、初日分は全メンバーを紹介しました)。

1.金曜 夜の部
 JOE LOVANO NONET (BarryRies,tp / Conrad Herwig,tb
/ Steve Slagle,as / Ralph Lalama.ts / Joe
Lovano,ts / Gary Smulyan,bs / John Hicks,p /
Dennis Irwin,b / Lewis Nash.ds)
MILES DAVIS & JOHN COLTRANE 75th BIRTHDAY
CELEBRATION (Roy Hargrove,tp / Michael Brecker,ts
/ Herbie hancock,p / John Patitucci,b / Brian
Brade,ds)
McCOY TYNER TRIO (Branford Marsalis,ts / McCoy
Tyner,p / George Mraz,b / Al Foster,ds)

2.土曜 昼の部
LUCKY PETERSON
TAJ MAHAL & THE PHANTOM BLUES BAND
JIMMY SMITH & THE DOT-COM BLUES

3.土曜 夜の部
DAVE HOLLAND BIG BAND
KENNY BARRON / REGINA CARTER DUO
LINCOLN CENTER JAZZ ORCHESTRA with WYNTON MARSALIS

4.日曜 昼の部
RIO AMERICANO HIGH SCHOOL BIG BAND
MONTEREY JAZZ FESTIVAL HIGH SCHOOL ALL-STAR BIG
BAND with special guest Wynton Marsalis & members
of the Lincoln Center Jazz Orchestra
FLORA PURIM & AIRTO

5.日曜 夜の部
CLAUDIA ACUNA
DANILO PEREZ & THE MOTHERLAND PROJECT
BRANFORD MASALIS QUARTET

これらは「ジミー・ライオンズ・ステージ」のアーティ
ストですが、それ以外のサブステージ群でも、大物ミュ
ージシャンの演奏を楽しむことができます。たとえば、
Wynton が「ナイトクラブ」で小編成バンドと演奏した
り、Branford と Billy Childs のデュオが「ディジー
ズ・デン」で聞けたり・・・。

3日間の出演アーティストは、のべ約70グループ。7会場
同時進行でこれらの演奏が進行しているのに加えて、先
述の通り多数の物販・飲食ブースがあふれている。MJF
が、真に「祭」というのもうなずけるでしょう。


<ジャズ情報がいっぱい>
FSJSのアメリカ公演は、6泊8日という駆け足のツアーで
すが、5回の演奏、2回のワークショップ、楽譜店・楽器
店への訪問、MJFでのジャズ鑑賞に加えて、サンフラン
シスコ、モントレー、カーメルの観光と、密度の濃い内
容でした。たくさんのジャズ情報を仕入れて、FSJSは、
9月25日、無事帰国しました。

ワールド・プロジェクト・ジャパン 黒坂洋介

投稿者 kurosaka : 2004年3月15日