ワールド・プロジェクト・ジャパン  〜 合奏音楽のための国際教育プロダクション 〜


ジェイコブズは空息域に気づいていたか

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<呼気についての記述>
呼気(息を吐くこと)について、アーノルド・ジェイコブズは以下のように考えていたようです。

※アーノルド・ジェイコブズ Arnold Jacobs (June 11, 1915 - October 7, 1998)
1944年から1988年までシカゴ交響楽団の主席 テューバ奏者。最高レベルの金管教育者であり、金管・木管・歌唱などの呼吸法の専門家とみなされていた。片肺伝説があるが、実際には両方とも肺はあった。しかし、幼少期の病気や成人してからのぜんそくによって、彼の肺活量はきわめて小さかった。彼の演奏哲学「Song And Wind」という言葉は有名。


Exhalation begins with the relaxation of the inspiratory muscles.
呼気は吸気筋群の弛緩から始まる。

During normal breathing, exhalation is passive.
通常の呼吸において、呼気は受動的である。

In forced exhalation, such as playing a wind instrument, the relaxed diaphragm is lifted by contraction of the abdominal muscles (neural inhibition) and the chest is drawn downwards and in by the internal intercostal muscles.

管楽器演奏のような強制的な呼気においては、弛緩した横隔膜は、腹筋群の収縮によって持ち上げられ(神経阻害)、さらに胸郭は内肋間筋によって内側へ向かって引き下げられる。

ブライアン・フレデリクセン著 "Song and Wind"より


前半は満息域の呼気について、後半は空息域の呼気について記述しているわけです。

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<空息域にあたる言葉を発見>
Song And Wind の中には「空息域」に該当する用語があります。


Below the point of zero pressure is what he calls the "negative pressure zone."
ゼロ気圧点より下の領域は、ジェイコブズが「陰圧帯(negative pressure zone)」と呼んだものです。


この領域を指す言葉は医学用語として確立していないようで、ジェイコブズも「陰圧帯」という独自のネーミングをする必要があったのでしょう。
※空息域は黒坂のオリジナル用語




<解釈は正反対?>
上記の記述に続く部分で、同書ではその「陰圧帯」について欠点を説明しています。


●肺内部の気圧が低いので外気は肺に入ろうとする。
●それに逆らって息を吐こうとすると大きな筋力が必要。
●つまり息を「絞り出す(squeezing)」必要がある。
●それは身体にとって不快な状態である。


したがって、演奏するときはたっぷり息をとって、満息域(これをpositive pressure zoneとジェイコブズが呼んだかどうかわかりませんが)を十全に使いなさい、というアドバイスがなされています。

水の呼吸では、満息域を開発することはもちろんですが、ジェイコブズのいう「不快な」空息域も積極的に開発していこうと提唱しています。squeeze することも重要なテーマとして扱うのです。

このあたりは、人間の身体運動をどのように理解するかの大きな分かれ目になるでしょう。機会をあらためて、別の観点から考察を続けたいと思います。

投稿者 kurosaka : 2017年7月24日