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息のスピードについての考察

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息のスピードについての考察
〜速度と圧と量の関係を整理する〜
著:黒坂洋介


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<スピードか圧か>
金管楽器の音程を変えるために息の「スピード」を操作するという指導がなされることがあります。これに対して息の「スピード」ではなく「圧」を操作すべきであるという反論も目にします。

スピードではなく圧をという説にもいくつか種類があり、大きく二つに分類できます。

A.圧が上がるとスピードは下がることを前提とする。
B.圧が上がるとスピードは上がることを前提とする。

それらの諸説について論点を整理したうえで、操作すべきはスピードか圧か、あるいはそれ以外の方法があるのかなどについて、以下十回にわたって考察を加えます。なお本稿は筆者個人による考察であり、文責はすべて黒坂にあります。

第一回:トリチェリの定理
第二回:ベルヌーイの定理
第三回:金管楽器で考える
第四回:圧と速度を計測した実験
第五回:HORN論文からわかること
第六回:誤解による偏り
第七回:圧もスピードも上がる前提
第八回:圧を意識することのリスク
第九回:圧でもスピードでもないアプローチ
第十回:まとめ







第一回:トリチェリの定理

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空気や水など流体の運動は複雑で、それを理解するためにはいくつかのステップを踏む必要があります。まず液体の圧と速度の関係を示したトリチェリの定理を見てみましょう。

液体が入った容器の壁に小さな穴をあけ、その穴から流出する液体の速度を記述するのがトリチェリの定理です。

重力加速度をg、液面と穴の高低差をh、流出速度をv とすると、vはgとhの積の2倍の平方根に等しくなります(v = √2gh)。これはhの値が大きくなるほどvが大きくなる、つまり「水圧がかかるほど流出速度が上がる」ことを意味します。

トリチェリの定理は、水道につないだホースの先を押しつぶすと水の流れが速くなるという私たちの生活実感を裏付けるものとも言えるでしょう。






第二回:ベルヌーイの定理

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ベルヌーイの定理は流体の速さと圧力の関係を記述するものです。これを本格的に学ぶとなるとたいへんな内容ですけれども、ベンチュリ管を使った実験において、先述のトリチェリの定理とは逆のように見えることが述べられています。「流体は速く流れると圧力が低くなる」というものです。

ベンチュリ管は、流体の流れを絞ることによって流速を増加させ、低速部にくらべて低い圧力を発生させる装置。ベルヌーイの定理では、流速が速くなると圧力は低くなるとされます。

たとえば図において「1」の圧力は「2」よりも高く、「2」の流速は「1」よりも速くなります。管の太さが小さくなると速度が増加し、それには圧力の減少を伴うのです。これはトリチェリの定理と矛盾するでしょうか?






第三回:金管楽器で考える

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流体の上流で圧をかけると下流で速度が増す。速度が出る代わりに上流よりは圧が低くなります。

圧というのは流体の中に蓄えられているエネルギーであり、それが速度に変換されればその分だけ圧が下がる。そう考えればトリチェリの定理とベルヌーイの定理は矛盾しないことになります。これを金管楽器にあてはめるとどうなるでしょうか。

舌を上げて口腔内を狭くしたところに強い息を入れると「圧1」は高まります。するとアパチュア内の気流はスピードが上がる。これが「速度2」です。ベルヌーイの定理から考えれば、圧2は圧1よりも低いことになります。

実際には空気が通る口腔内通路の形状とアパチュアの口径を比較したり、時々刻々と変化する気流速度の推移を調べるなど、もっと複雑な分析が必要と思われますが、ここは全体像を理解するために単純化したモデルでイメージをつかむことにします。

息のスピードを上げれば音程が上がるというときのスピードは「2.アパチュア内」の気流速度のこと。さらに厳密に言えば、アパチュアに入る直前の、つまり唇が振動する直前の空気の速度が音程に関与するのだと考えられます(これについてはあとでもう少しくわしく触れます)。

そうだとすれば「3.マウスピース内」や「4.リードパイプ内」については圧も速度も本論とはあまり関係なく、「1.口腔内」「2.アパチュア内」だけに着目すればよいということになるでしょう。







第四回:圧と速度を計測した実験

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HORN吹奏時における口腔内圧と呼出速度の関係」と題する論文があります(以下HORN論文)。日本体育大学紀要33巻1号(2003)35-41

プロのホルン奏者7名を被験者として、口腔内圧と呼出速度を測定し、その関係を調べることを企図したものです。そこで得られた結論を整理・要約すると以下のようになります。

◎HORN論文に書かれている結論の要約
1.どの音程を吹奏しても、口腔内圧は音量が大きいほど高くなる。
2.どの音量で吹奏しても、口腔内圧は音程が上がるほど高くなる。
3.どの音程を吹奏しても、呼出速度は音量が大きいほど高い値を示す。
4.pを除く音量(つまりfとmf)において、呼出速度は音程が上がるほど小さくなる。
5.pにおいては呼出速度は規則性が観察されない。
6.fとmfにおいて、口腔内圧と呼出速度は相反する関係にある。pにおいてはその傾向がない。


<呼出速度とはなにか>
この論文にはいくつかの疑問があります。なかでも最大の疑問は、論文中で「呼出速度」と呼ばれているものの内容です。以下、同論文から引用します。

***(引用ここから)***
呼出速度(cc/sec)は、半導体ストレインゲージをマウスピース内に装着した機器を用い、呼気による圧変化を検出した。
***(引用ここまで)***

ストレインゲージ(ひずみゲージ)とは、物体のひずみを測定するための力学センサー。ひずみ測定を利用して間接的に応力計測や荷重計にも用いられるといいます。

ストレインゲージで「息の速度」を測ることができるのかというのが第一の疑問です。実際、上記引用箇所を読むと、呼気による「圧変化」を検出したとあるだけで、速度を計測したとはなっていません。

そして呼出速度の単位として「cc/sec」が用いられているのが第二の疑問です。言うまでもなく、速度の単位は「距離/時間」です。「容積/時間」を呼出速度の単位とみなしたのはなぜか。その理由について論文ではまったく説明されていません。

ひとつの推測として、単位時間に通過する空気の量が多ければ速度も速いはずだということで代用されたのではないかと思われます。

しかしたとえば、川の上流では水量が少なくスピードは速い一方、川下は水量が多く水流は遅くなります。それは川幅が違うからではありますけれども、マウスピースの内径と通過する空気量の関係次第では、川上と川下の水流と同じことが起こりうるはずです。

また後述するように、息のスピードはマウスピース内ではなく、口腔内からアパチュアを通りすぎる部分で計測すべきではないかという疑問もあります。その場合は、空気量とスピードの関係は根本から考え直す必要があります。

いずれにしても、なんの説明もなく「容積/時間」を速度の単位として使っていいことにはならないとだけは言えそうです。

cc/sec という単位で示されるは息の速度ではなく、単位時間あたりの息の「量」です。息の量が増えれば音量が増し、減れば音量が小さくなる。そのことと「音程」がどう関係するかは、この実験からはわからないということになります。


<計測方法への疑問>
計測方法についての疑問もあります。先に見たように、息のスピードが音程に影響を与えるのは「アパチュアの入口」あたり(つまり口の中)の空気の速度であると筆者は考えています。

なぜなら、唇の振動によって音が作られる前の気流が音程を決定しているのであって、アパチュアを通りすぎたあとの(つまり音が作られたあとの)速度を測っても、音程との関係は薄いと考えるからです。

HORN論文では、センサーをマウスピース内に装着しているので、仮にそれが本当の「速度」を計測したものであったとしても、音程との関係において有意なデータが得られるか疑問であると言えます。

また、論文によれば、計測に使われたダイヤメディカルシステム社製の機械は、この実験のために特別に試作したものだとか。口腔内圧を測るセンサーも、「呼出速度」を測るセンサーも同じ機械にデータが入力され、増幅、記録のうえ分析がなされています。しかし圧と速度が同一の機械で計測できるのかという疑問が残ります。

実際、流体の速度を測ることは難しく、その方法をざっと調べただけで、さまざまなくふうがなされていることがわかりますます。

いくつか例をあげると「ピトー管を使う方法」「音波のドプラー変移を利用した方法」「実際に粒子などを流して連続撮影する方法」「カルマン渦を発生させ、その音波から測定する方法」「衝撃波面の角度をシュリーフェンで見る方法」「風速計のような回転翼による回転数による方法」「放電の連続写真による方法」「流量とベルヌーイの定理から逆算する方法」「吹流しの角度から判定する方法」「岩などが転がる状態から判断する方法」「電子対などの温度低下により判定する方法」などなど...。

これを見る限り、アパチュア口腔側の気流速度を正確に測ることは、一筋縄ではいかない難題ではないかと思われます。






第五回:HORN論文からわかること

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先に「HORN論文に書かれている結論」を6項目に要約しました。そこに「呼出速度」と記載されたものが、じつは「呼出量」すなわち音量ではないかという疑問を呈しました。もし、呼出速度を「呼出量」と置き替えたら、この論文の結論はどのように読めるでしょうか。

◎HORN論文の結論(第一次読み替え)
1.2.は省略。
3.どの音程を吹奏しても「呼出量」は、音量が大きいほど高い値を示す。
4.pを除く音量(fとmf)において、「呼出量」は音程が上がるほど小さくなる。
5.pにおいては「呼出量」は規則性が観察されない。
6.fとmfにおいて、口腔内圧と「呼出量」は相反する関係にある。pにおいてはその傾向がない。

これではなんだかよくわかりません。それは同論文における「音量」の定義があいまいだからだと思われます。この実験において、被験者に求められた吹奏音量は以下のようなものでした。

***(HORN論文の引用ここから)***
mfを、それぞれの被験者が日常、一番楽に練習している音の強さとし、pはそれより弱く、fは強く想定した
***(引用ここまで)***

つまりf、mf、pという音量は、被験者の主観によるものであり、ドレミファソラシドというそれぞれの音程が本当に同じ音量で吹奏されたかどうかが担保されていないことになります。

被験者がプロ奏者であることを考えると、はなはだ失礼な表現になりますが、以下のような可能性を考えておく必要があるのではないでしょうか。

つまり、本人はずっとmfで演奏しているつもりでも、音程が上がるにつれて音量が小さくなっている可能性です。

<実際にはなにが起きていたか>
もしそれが起きているのだと仮定すれば、HORN論文の結論には以下のような第二次読み替えをすることができます。

1.2.は省略。
3.どの音程を吹奏しても、「呼出量」は音量が大きいほど高い値を示す。 → 息の呼出量が多いほど音量が大きくなった。
4.pを除く音量(fとmf)において、「呼出量」は音程が上がるほど小さくなる。 → 被験者の主観ではfまたはmfをキープしながら吹奏している場合も、実際には音程が上がるほど音量は減少していた。 
5.pにおいては「呼出量」は規則性が観察されない。 → 被験者の主観でpをキープしながら吹奏している場合、音量のコントロールが不安定となった。
6.fとmfにおいて、口腔内圧と「呼出量」は相反する関係にある。pにおいてはその傾向がない。 → fとmfにおいて、口腔内圧が高まるほど音量が減少した。pにおいてはその傾向がなかった。

音量について「被験者が日常、一番楽に練習している音の強さ」という条件で実験した場合、被験者は自分が「楽かどうか」を基準にするため、音程の変化にともなう音量変化に気づきにくいのではないかと推察できます。

なお、ここに述べられている口腔内圧と音量の関係は、本研究における吹奏音量の指定、すなわち「mfを、それぞれの被験者が日常、一番楽に練習している音の強さ」とするという条件において成立する特殊なものと考えられます。

口腔内圧が高くなったらかならず音量が小さくなるわけではなく、息のスピードを高めつつ呼出量も増やして、高音を大音量で吹奏することは可能であるからです。






第六回:誤解による偏り

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ベルヌーイの定理の「流体は速く流れると圧力が低くなる」は私たちが誤解しやすい表記だと思われます。図において、圧1を高くするとアパチュア内の気流のスピードは上がるはずです(速度2)。

ベルヌーイの定理が述べているのは、そのときの圧2は圧1よりも低いということです。しかし定理を読み間違うことで「圧1を高くすると速度2が遅くなる」という誤解が生じそうです。

HORN論文における「口腔内圧と呼出速度は相反する関係」という結論が、ベルヌーイの定理を誤解した場合と一致しているのは偶然でしょうか。

もしこの誤解が先にあって、それが実験を設計する段階でなんらかのバイアス(偏り)を与えた可能性はないか。その検証が必要かもしれません。






第七回:圧もスピードも上がる前提

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さて、本論の冒頭で、スピードではなく圧を重視するという説にもいくつか種類があり、大きく二つに分類できると述べました。

A.圧が上がるとスピードは下がることを前提とする。
B.圧が上がるとスピードは上がることを前提とする。

このうちAの立場を取る諸説については、ベルヌーイの定理の誤解、あるいはHORN論文を論拠としているケースが多いのではないかと推察されます。

では、Bについてはどうでしょうか。圧が上がればスピードも上がることは認めつつ、しかし「スピードではなくて圧だ」という主張です。具体的には以下のような趣旨の発言を目にしたことがあります。

●息のスピードをコントロールするのでなく、楽器に吹き込む息の圧力を意識して吹くと、高い音で も無理なく出せる。
●肺で圧力かけるようにすると、高い音も出せる。前より大きく吸わなくなって、調子があがった。
●圧力のコントロールに意識を向けたとたん、苦しかった音域が自然に出るようになった。
●口先の「息のスピード」を意識するのではなく、肺から口腔内にかけてどれだけの圧力をかけるかが重要だと思う。
●高い音や大きい音は、内臓まで吐き出すくらいの勢いで圧力をかけることを意識している。
●スピードを重視せずに圧力のみを重視している。
●スピードという概念に誤りがあると思う。
●音楽の種類によっては、pppで圧力のあるサウンドが必要である。

ここで述べられている「圧力」は口腔内圧力だけでなく、いくつかの種類があることに気づきます。

●楽器に吹き込む息の圧力
●肺でかける圧力
●肺から口腔内にかけての圧力
●内臓全体にかける圧力
●サウンドの圧力(いわゆる音圧)
●イメージとしての圧力

さらに事例を集めればもっとたくさんの種類があると予想できます。

これらの意見の中には「圧が上がればスピードも上がるのだから結局は同じことだけど、自分は圧のほうを選ぶ」というものもあれば、「そもそも圧とスピードはまったく異なるもの」という主張もあって、見解に幅があるように見えます。

いずれにしても、すべて吹奏時に意識するポイントを「息の速度」ではなく、なんらかの「圧力」のほうに置くものだとまとめられます。

これは指導/学習言語の問題とも関係がありそうです。スピードよりも圧力のほうが意識しやすいなら、そちらを使って指導/学習しようという選択もあり得るからです。






第八回:圧を意識することのリスク

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「スピードの違いはよくわからないけど、圧は感じやすい。圧を意識して吹いたら効果てきめん」という場合、そこではなにが起きているでしょうか?

いろんなケースがあると思われますけれども、本人が主観的に「圧」と感じることができるものは、実際には「筋肉の緊張」であったり「力み」である場合も含まれていると推測できます。

そのような場合、ラフな筋力に頼った奏法は「自覚しやすい」「短期的に成果を感じやすい」というメリットがある反面、長期的に悪癖を身につけるリスクがあるとは考えられないでしょうか。すなわち

●力みを生みやすい
●力づくの奏法に陥りやすい
●パワー主義を助長する
●ラフな身体の使い方が習慣化される

などが懸念されます。その結果、

●無理やり絞りだす騒音的なハイノート

となる場合があるでしょう。

逆に口腔内のごく小さな領域の圧だけを計測したり制御しようとした場合は、

●蚊の鳴くようなか細いハイノート

につながる場合もありそうです。どちらも音楽的なコントロールが効かない、つまり「曲で使えない」高音域ということになります。

奏者が主観的に吹奏時の「圧を増した」と感じる場合、少なくとも五つの事態が起こり得ると想定できます。

1.音程だけ上がる
2.音量だけ上がる
3.音程と音量の両方が上がる
4.音程が上がり音量が下がる
5.音程が下がり音量が上がる

音程をコントロールするために「圧」を操作する場合、つねに音量の増減を伴う可能性がつきまとうわけです。

しかしながら、これらのリスク要因を注意深く取り除くような対策を確立するなら、圧の操作を中心に据えて適切なメソッドを創出できる可能性があるとも考えられます。






第九回:圧でもスピードでもないアプローチ

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ここで、指導/学習言語に「圧」や「スピード」ではないアプローチを試みているひとつの事例として、筆者がプロデュースする「ハイノート入門セミナー(講師:杉山正)」を紹介します。このセミナーにおいて、高音域へのアプローチは以下の2点が指導されます。すなわち


1.舌を上げて息の通り道を狭くする(相対シラブル)
2.狭くなった気道に強い息を吹き込む(ハイキック)


あえて述べるなら、前者は息のスピードを、後者は身体内部の圧を上げていることになります。つまりスピードと圧の両方を上げることで高音を出そうとするわけです。

実際、これがうまくいくと、その場で音域が伸びるケースがいくつも見られます。セミナーの最中に生まれて初めてダブルハイC(コンサートBb)を出したトランペットの高校生もありました。

ただ、セミナーにおいて「圧」という言葉はほとんど使われません。息のスピードが結果として速くなることは説明されても、スピードそのものを操作しようするわけではありません。あくまでもタング(舌)とエア(息)のバランスよい使い方を身につけるエクササイズに重点を置きます。

したがってこのトレーニング体系における指導/学習言語としては、「スピード」も「圧」も主役ではないといえるでしょう。






第十回:まとめ

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ここまで見てきたとおり、「息のスピードではなく圧が重要」という説にはいくつかの疑問や留保条件をつける必要があります。逆に「圧ではなくスピードだ」という説があるとすれば、それも同様でしょう。また、スピードや圧と「息の量」の混同がしばしば見られることにも気づきます。

金管吹奏で実際に起きていることを記述するなら、高音を出すとき、肺から口腔内にいたる圧は高まっており、その結果、アパチュア内に入る気流速度はアップしていると推測できます。このときたくさんの空気量を送り込めば音量は増し、少ない空気量であれば小さな音になる。

大きなボリュームで楽器を鳴らそうとするとき、口腔内ほか体内の圧は高まると考えられます。同時に小さな音で高音を鳴らそうとするときにも圧は高まることをHORN論文の実験結果は示唆しています。

このように「圧」は気流速度にも空気量にも影響を及ぼし得るため、「圧・音程・音量」の三者を正確に測定し相関を観察するためには注意深く緻密な実験設計が求められると考えます。

また、奏者が主観的に「圧」と感じるものは、腹腔圧、胸腔圧、口腔圧のほかに意識圧のようなものもあり得るので、これらを慎重に区別する必要があるでしょう。

金管奏者にとって、音域と音量を別々にコントロールすることはしばしば困難を伴います。たとえば高い音域で自由に音量を小さくしたり大きくしたりできること、つまり気流速度と空気量をそれぞれ独立した因子として扱えるようになることが楽器の上達であるとも言えるわけです。

一方、日々の練習において、スピードを操作しようとか、圧を操作しようと意識する必要があるかどうかはケースバイケースでしょう。指導者および学習者が採用するトレーニング体系によって、着目点や使われる言語は大きく異るからです。

本論では、「圧」「スピード」「量」について言葉の意味を整理し、それらの関係について解説を試みました。そのうえで以下の諸点を「まとめ」として提示します。

1.圧(口腔内圧)と息のスピード(アパチュア入口地点)を「圧かスピードか」と二者択一にする必要性は少ないと思われる。

2.しかしながら、指導や学習の用語としての「圧」「スピード」の使い方にはいくつかの選択がある。

  a. 圧とスピードの両方を使う
  b. 圧だけを使う
  c. スピードだけを使う

いずれの場合も、くふう次第で効果的なトレーニング体系を構築することは可能と考えられる。

3.また「圧」「スピード」という用語を使うことなく両方を育てるようなトレーニング体系を構築することも可能と考えられる。

(了)

(C)2014 Yosuke Kurosaka

投稿者 kurosaka : 2014年1月24日