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フェスティバル論

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  単発イベントと継続イベントの違いについて考察。
  ジャズ・フェスティバルは、ジャズが主題のテーマ
  パークであるべきだと提言する。

  
<フェスティバルは大きなコンサートではない>
コンサートは単発イベントであり、フェスティバルは継
続イベントである。両者が決定的に異なる点は、前者が
単年度で成否を判定できるのに対し、後者はそれができ
ない点にある。

継続イベントを順調に継続するためには、確実な「成長」
が求められる。ある年、予想外の成功をおさめると、翌
年以降の運営が行き詰まる場合がある。スタッフも観客
も、前年の成功イメージが鮮烈なため、それを上回る企
画を出せなくなるためだ。「成功しすぎは失敗」なので
ある。

したがって、単発イベントなら「成功」と判断される内
容でも、継続イベントの場合、前後の関係から、まった
く逆の評価を下さなければならない場合がある。継続イ
ベントでは、「大成功」よりも「漸成長」がよい。


<出演者の知名度に集客を依存してはならない>
継続イベントは、出演者の知名度に集客力を依存しては
ならない。たしかに有名アーティストが出ればチケット
は売りやすいが、それはアーティストが集めた客であっ
てフェスティバルが集客したものではない。

出演者は毎年変わるという前提に立てば、継続イベント
は、「イベント自体が集客力を持つ」ような仕組みを作
ることが必須要件となる。

有名人を呼んでしまえば簡単にチケットが売れるので、
安易にその道を選ぶイベント主催者は多い。けれども、
それでは、いつまでたってもイベントは育たない。

ジャズ・フェスティバルそれ自体が、十分な集客力を有
している場合にのみ、有名アーティストを呼んでよい。
つまり、フェスティバルがアーティストに「位負けしな
い」ことが肝要なのである。


<アーティストを些末の要素として扱う>
イベント自体が集客力を持つためには、どうすればよい
か。まず、主導権を「出演者から主催者へ」取り戻すこ
とが必要である。アーティストの知名度に集客を依存す
るということは、主導権はアーティストにある。この不
健全な状態を改め、イベントを主催者の管理・監督・制
御の下に置かれなければならない。

したがって、間違っても「今年はこんなすごい人が出ま
すよ」などというアピールはしてはならない。アーティ
ストは、フェスティバルのメインではなく、あくまでも
背景装置にすぎない。「些末の」存在として扱わなけれ
ばならないのである。

これは、フェスティバル主催者の意識改革であると同時
に、聴衆の啓蒙をも意味する。「今年は誰それが出てる
から行こう」という客を少しでも減らし、「誰が出てて
もとりあえず行こう」という客を増やせたとき、フェス
ティバルは軌道に乗る。


<フェスティバルの方向性を定める>
そもそも、このイベントは、何のために継続するのか。
その目的が曖昧なジャズ・フェスティバルが多いのでは
ないか。何のために行う、誰を対象にしたイベントなの
か。実行委員会がそれを明確に把握していることのほう
が、むしろ例外的なのかもしれない。

フェスティバルの方向性は、すべてを律する。会場の選
定、その演出、舞台・音響・照明のあり方、模擬店のあ
り方、ポスター・パンフレットなど制作物の表現、プロ
モーション活動、出演ミュージシャンの選定、プログラ
ムの内容、スタッフの思考・行動、スポンサーの協賛形
態などなど、ありとあらゆる要素が、「フェスティバル
の方向性」から導き出されるべきである。


<フェスティバル・カラーを醸成しよう>
方向性を明確に示し、それに沿って個々の作業にブレイ
クダウンすることで、フェスティバルのカラーが鮮明に
なってくる。「このミュージシャンはうちのフェスティ
バルには合わない」ということが、末端のスタッフにも、
あるいは聴衆にもはっきり分かるような、きわめて強い
個性がフェスティバルには求められる。

他方で、フェスティバルは、文字どおり祭りなのだから、
「ごった煮感覚」がなくてはならない。どこまでカラー
を鮮明にし、どこまで多様性を認めるか。ここに、プロ
デューサーのセンスが問われるのである。


<MJFに学ぶ>
以上の要件を、カリフォルニアのモントレー・ジャズ・
フェスティバル(MJF)は、どのようにクリアしているの
か。まず、MJFの実態を見てみよう。

1.モントレー・フェアグラウンド:
 MJFが開催される会場は、「モントレー・フェアグラ
 ウンド」と呼ばれる。もともとは、農畜産関連の展示
 会やロディオ大会などを行うためのスペースである。
 フェアグラウンドは長方形で、短辺が徒歩で1分半、
 長辺が7分程度の、散策するにはほどよい広さ(狭さ)
 である。

2.複数会場での同時進行ライブ:
 モントレー・フェアグラウンドの敷地内に、大小合わ
 せて7つ、屋外および屋内の会場が設けられている。
 これらの会場を利用して、3日間にわたって、同時進
 行で、ジャズライブが繰り広げられる。

3.飲食・物販の大量出店:
 MJFは売店が非常に充実している。フェア・グラウン
 ドを埋めつくすように、約100のテントブースが出店。
 そこではリブステーキ、フルーツ、アイスクリーム、
 焼きとうもろこし、ホットドッグ、中華料理、照り焼
 きチキン、ケイジャン料理、バーベキュー、ソーセー
 ジなどバラエティに富んだ食事が提供される。また、
 Tシャツ、トレーナー、ポスター、帽子、革ジャン、
 ガラス細工、民族工芸品、カバン、アクセサリー、タ
 ワーレコードなどが、所せましと軒を連ねている。
 ちょうど祭りの縁日や浅草の仲見世のイメージである。
 まさに、フェスティバル、である。

これをまとめると、以下の3点となる。

 1.歩き回れる範囲をイベント会場として囲い込む
 2.同時進行でショウを行う
 3.売店を充実させる

これは何かに似ていないか。そう、テーマパークである。
ジャズ・フェスティバルとは、ジャズをテーマとした異
次元空間、まさにテーマパークなのである。

MJFの場合、3日間の出演アーティストは、のべ約70グル
ープ。7会場同時進行でこれらのアーティストが演奏し
ているのに加えて、多数の物販・飲食ブースがあふれて
いる。連日だいたい夜中の1時までたっぷり楽しむこと
ができる。まさに「ジャズ・テーマ・パーク」と呼ぶに
ふさわしい。

9月半ばに開催されるMJFのチケットが、6月中に完売す
るのもうなずける。誰か特定のアーティストを見に来る
のではなく、フェスティバルそのものを楽しみにくる客
が多いのもMJFの特徴といえるだろう。

なお、MJFの「方向性(non profit & educational)」
や「フェスティバル・カラー」についても、興味深い分
析を行うことができる。しかしながら、こまごまとした
データの専門的な解説が必要なため、かなりのボリュー
ムを要する。これについては機会を改めて言及したい。


<なぜ日本ではできなかったか>
MJFが行っていることが、従来の日本のジャズ・フェス
ティバルでは、なかなか実現できていない。なぜなら、
それは第一に、主催者の発想が「大きなジャズ・コンサ
ート」だったからではないか。

「誰が出演するか」が最重要事項であり、海外の一流ア
ーティストの演奏を、聴衆は静かに座して拝聴するもの、
という暗黙の了解があったのではないか。

ちょうど日本のジャズ・フェスが旧来の「遊園地」で、
MJFが「テーマパーク」、と考えれば分かりやすい。前
者はアーティストの演奏を楽しみ、後者はその空間自体
を楽しむ。両者は似て非なるものといえる。


<日本での先行事例>
もちろん、日本にも、横浜ジャズ・プロムナードのよう
に、多会場で同時進行でライブを行うイベントは存在す
る。しかし、各会場が分散しているため、「異空間」と
しての一体感に難がある。

また、歩き回れる範囲で同時進行するイベントとして、
神戸のジャズ・ストリートをあげる人がおられるだろう。
なるほど、このイベントは、かなり理想に近そうである。
http://www.kobejazzstreet.gr.jp/main/

これをさらに一歩進めて、MJFのように、

 1.歩き回れる範囲をイベント会場として囲い込み
 2.同時進行でショウを行い
 3.売店を充実させることによって

ジャズ・テーマパークを創出できないか。これが、今後
の日本のジャズ・フェスティバルの課題といえよう。

ワールド・プロジェクト・ジャパン 黒坂洋介

投稿者 kurosaka : 2004年3月15日